Story

デザイナーの夢とロンドン

日本の美大を卒業する頃、日本はひどい就職氷河期。

わざと留年する人、大学院に進む人も多く、あまり周囲に就職活動をしている人すらいませんでした。

そんな中、東京のアパレル会社を数社受けましたが、提出物の意味もわからない状態。ムードボードってなんだ?というような。同じスタートラインにすら立てていない事に気が付き、絶望と無気力感に襲われました。

秋も深まった頃、ロンドンの大学のポスターが構内に貼ってあるのを見つけました。楽に入れそう、まだ学生でいられる、という甘えはあったものの、20歳で初めて行った外国の街ロンドンに今度は住める、期待と希望を胸に大学を卒業しました。

ニットとの出会い

ロンドンに行ってまだ間もないころ、気になっているニットのブランドが入っているスタジオのOPENイベントに行きました。ロンドンには、アーティストがシェアをして制作しているスタジオが沢山あります。そのOPENイベントをきっかけに、美しい色合いのフェアアイル柄が得意なHIKARU NOGUCHIさんのところでアルバイトをさせていただくことになりました。

私は編み物はできなかったので、アイロンをかけたり、ミシン掛けばかりをしていましたが、蒸気をあてるとふわぁっと膨らんで見違えるように可愛くなる糸の様子、右に左に動かすだけでどんどん編めてしまう編み機、糸の組み合わせだけで全然違う雰囲気になる編地など、それらはまるで魔法を見ているように不思議で楽しいものでした。

人形

ロンドンでは仕事の後に習い事をするのがポピュラーで、年齢を問わず皆さん色々な習い事をしていました。私もいくつかやった習い事の一つが、フェルトメイキング。他の皆が大作を作る中、私は小さい人形を作ることに突然眼覚め、フェルトメイキングのクラスが終わってもひたすら小さい人形を作りつづけました。

その人形がキングスロードにある、憧れのお店に置いてもらえることになり、その後そのお店に寄った渋谷のDESPERADOのバイヤーさんに声をかけていただくご縁にもなりました。

売れない服を作り続け、色んなお店に拙い英語で電話をかけ、服をお店に持ち込み、でも特に何も良いことは起こらず、私は一体ロンドンで何をやっているのだ、と落ち込む日々に、お人形が光をもたらしてくれました。

お店という存在

アトリエにて

お人形は家庭用編み機を使って編んでいます。使っている糸は風合いが気持ちの良いウールの糸が殆ど。

沢山の色の中から、組み合わせ、引きそろえ、新たな模様と色を作り出しています。

機械で編める糸は細い糸なので、市販の手編み用の糸とはちょっと違います。コーンと呼ばれる芯に巻かれた、1キロ単位の糸を使っています。コーンに巻かれている時は普通の地味な糸なんですが、蒸気をあてたり、洗剤で洗ってアイロンで整えるとふっくらとした風合いに変化し、とても可愛くなります。

編み機はシルバーのものを使っています。昔、既製服があまりなかった頃、編み機は各家庭に1台あって、お母さんが皆の服を編んでいました。

人形の柄はパンチカードいというもので作っています。カードにポチポチと穴をあけていくと、穴が開いたところに別の色が編みこまれるのです。柄を考えるのは、ドット絵を描くのと似ていて楽しいです。